ラマン分光法における
指紋・低波数領域の関係と情報の種類
低波数領域ラマンスペクトルと指紋領域スペクトルの関係を図に示したように指紋領域と呼ばれる200-2000cm-1の間のラマンスペクトルを測定し、その領域に物質の分子構造-官能基、幾何異性、コンフォメーション、水素結合、化学構造の状態などに由来するピークが現れます。
指紋・低波数領域ラマンスペクトル測定用
Kaiser社ラマン顕微鏡システム
顕微ラマン分光装置Workstation(Kaiser Optical Systems Inc., Ann Arbor, MI USA) は標準モードでは指紋領域のラマンスペクトル測定が可能で、低波数領域の測定はOndax社の(SureBlock TR-84 MICRO module , Monrovia, CA USA)を顕微ラマン分光装置に搭載することで可能とあります。指紋/低波数領域の測定モード切替はレバーの操作だけで簡単に選択できます。
結晶多形測定実例
カルバマゼピン (Carbamazepine:CBZ)
指紋領域ラマンスペクトル
CBZの結晶I(a),III(Fig.b)、2水和物(Fig.c)の指紋領域のラマンスペクトルを示します。それぞれのラマンスペクトルのピーク位置と強度の違いを微細な違いはあるものの、化学組成が同じ各結晶形のラマンスペクトルは酷似しており識別は困難です。
低波数領域ラマンスペクトル
一方、低波数領域ラマン分光法で得られたラマンスペクトルを用いれば、CBZのI形では72, 110,および172 cm
-1、 III形では39, 73, 105, 121,および171 cm
-1、2水和物では 61, 76, 112,および173 cm
-1付近にピークが認められ、CBZの結晶多形のスペクトル間には明確な違いを観察することができます。
錠剤中の共結晶と物理的混合品
分散状態の評価と定量結果実例
物理的混合品のラマンスペクトルには 22, 38, 92, 112,140cm-1にピークを確認できる一方、共結晶に15cm-1と48cm-1の強度の強いピークはあるが、4HBAおよびCAFにはありません。この事は共結晶の結晶構造が4HBA、CAFの結晶構造と異なる事を示唆し、それは4HBAにある40-140cm-1のピークが共結晶のラマンスペクトルに無い事でも証明されています。
主薬含量10%(共結晶7.5%、物理的混合品2.5%)結晶セルロース(旭化成ケミカル)90%を含有した錠剤のマッピング事例を紹介します。低波数領域ラマンスペクトルを用いたケミカルイメージングを使えば、低含量の2.5%のPMと7.5%の共結晶が精度よく定量的、定性的評出来ることが示唆された結果となりました。